コモンモードチョークコイル(CMCC)は、差動伝送ライン(非車載用:USB、HDMI、Mipiなど、車載用:CAN、CAN-FD、100Base-T1、1000Base-T1、SerDes、A2B®など)、電源ライン、オーディオラインなどで問題となるコモンモードノイズを低減するフィルタです。
村田製作所EMIフィルタ事業部 製品技術部 製品技術3課 田中 正氏による記事では、コモンモードチョークコイルを使用した電源ノイズ対策の事例を紹介します。
電子機器は一般に複数の半導体と機能ブロックで構成されており、両方に指定された電圧で電力を供給する必要があります。多くの場合、必要な電圧はすべて異なります。このような場合は、DC-DCコンバータを使用して電圧を変換する必要があります。電源を電子部品の動作に必要な電圧に変換する回路です。
必要な電圧が異なる場合、サイズと電気的性能が2つの主な考慮事項になります。このような場合にはスイッチングDC-DCコンバータがよく使用されます。ただし、スイッチングによって発生するノイズには注意が必要です。騒音規制基準を満たさない場合は、何らかの騒音対策が必要となります。
電源ラインノイズ対策例
このノイズ対策例は、スイッチング周波数が500 kHzの一般的な非絶縁型、降圧型 (5 V ~ 1.8 V、Pout = 27 W) DC-DCコンバータを使用して作成しました。
ここでの目標は、CISPR22クラスB一般デバイス規格 (一般家庭や軽工業環境で使用されるデバイス) をサポートすることです。ノイズモードが主に差動モードか共通モードかを判断して、効果的なノイズ対策を実施しました。
(1)雑音端子電圧(150kHz~30MHz)
擬似電源回路網 (AMN) を使用して、接地に対する1本のラインのコモンモード電圧 (ノイズ端子電圧) を測定しました。初期条件でノイズ端子電圧を測定すると、500kHzのスイッチング周波数の倍数(周波数をn倍に変換)でノイズスペクトルが発生していることがわかります。
図1. 初期ノイズ端子電圧レベル
ノイズ対策を進める前に、ノイズ モードが主に差動モードであるか共通モードであるかを判断するために、Delta-LISN (Line Impedance Stabilization Network) を使用してモード分離を実行しました。図2に示すように、この場合のノイズは主に差動モード ノイズであることがわかります。
図2. ノイズモードの分離
その結果、EMIFILを使用した場合のノイズレベルは大幅に減少しました。® 差動モードノイズ対策に非常に効果の高いブロック型フィルタBNX029-01を採用しました。
図3. ブロック型エミフィルのノイズ対策効果®
放射ノイズ(30MHz~6GHz)
上記の対策を実施した後、10mで空間に放射される電界強度を測定したところ、CISPR22クラスBのノイズ許容値を大幅に超える放射ノイズが検出された(図4)。
放射経路を調査したところ、DC-DCコンバータの入力電源ケーブルがアンテナとなり、周囲にノイズを放射していることが判明しました。
図4. 初期放射ノイズレベル
BNX029-01は100kHzから1GHzまでの広い周波数帯域にわたって差動モードノイズを除去できるため、残ったノイズはコモンモードノイズであると推定されました。
コモンモードノイズ対策としてPLT10HH9016R0PNコモンモードチョークコイルを挿入したところ、放射ノイズのレベルが大幅に改善され、CISPR22クラスBのノイズ許容値を満たすことができました。その結果、放射ノイズは主にコモンモードノイズであることがわかりました(図5)。
図5. コモンモードチョークコイルのノイズ対策効果
電源ライン用コモンモードチョークコイルラインナップ
村田製作所は、お客様のアプリケーションに最適な部品を提供するために、さまざまな部品サイズと特性を維持しています(表1)。
製品名 | サイズ | コモンモードインピーダンス | 定格電流*1 | 定格電圧 |
---|---|---|---|---|
DLW5BTM***TQ2 |
5.0×5.0mm T=最大2.5mm。 |
100Ω~1400Ω 100MHzで |
6Aから2A | 50Vdc |
PLT5BPH******SN |
5.0×5.0mm T=5.0mm最大。 |
100Ω~500Ω 100MHzで |
5.6A~3.1A | 80Vdc |
PLT10HH******PN |
12.9x6.6mm T=最大9.3mm |
45Ω~100Ω @10MHz |
18Aから15A | 300Vdc |
400Ω~1000Ω @10MHz | 10Aから6A | 100Vdc |
表1. コモンモードチョークコイルのラインナップ
※1定格電流に関してはディレーティングが設定されておりますので、各製品の詳細仕様をご確認ください。
※2動作温度範囲は製品タイプごとに異なりますので、各製品の詳細仕様をご確認ください。
まとめ
ノイズ対策を実施する場合、ノイズモードがコモンモードかディファレンシャルモードかを判断することが非常に重要です。村田製作所は、あらゆるサイズの電源ライン用コモンモードチョークコイルを揃えており、定格電流が高く、挿入損失も高いため、電源回路に最適なノイズ抑制製品を提供します。